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【VII】 参考判決


(1) 自動販売機事件*14

[本発明:]



 内部に商品収納室が形成されている断熱構造の本体と、前記本体の前部に設けられる
と共に下部前面に商品取出口(5)が設けられている外扉(4)と、前記外扉(4)に対向配置されると
共に前記本体の前面開口を開閉する内扉(9)と、前記内扉(9)の下部に前記商品取出口(5)に
対応するように設けられ、前記商品収納室内に設けられた商品シュートを滑落する商品を前記商品
取出口(5)へ搬出するための商品搬出口(1)と、前記商品搬出口(1)に上端が軸支され、重心位置(G)を
 前記商品取出口(5)側に寄せるとともに前記商品シュートを滑落してきた商品が内壁面に沿って
滑落できるように前記商品取出口(5)側に湾曲して形成された前壁(11a)を有し,該重心位置(G)を
前記商品取出口(5)側に寄せることによって生じるモーメントの作用により,商品の通過後に
前記商品搬出口(1)の前縁部に当接して該商品搬出口(1)を塞ぐ搬出口扉(11)とを備えたことを
特徴とする自動販売機。


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*14 東京高裁 平成14行ケ646

[引用発明:]




[特許庁の判断:]


ア 引用例には,「商品搬出に際し,搬出シュート(14)より滑動してくる商品(2)は
 断熱扉枠(15)の断熱扉(18)を第3図中,矢印A方向に押し開いて商品取出口(8)の
 内部に落下する」(6頁第2段落)と記載されている。

イ 第3図における,搬出シュート(14)上にあって商品搬出口(13)に向かって滑動して
 いる商品(2)及び商品搬出口(13)に嵌込まれた断熱扉枠(15)の開口部(16)を
 塞いでいる断熱扉(18)(実線で描かれたもの)の相互の位置関係。

ウ 断熱扉(18)の形状について,第3図においては,開口部(16)を塞ぐ位置に実線で
 描かれた形状及び時計方向に回動した位置に二点鎖線で描かれた形状が,いずれも商品
 取出口(8)側に凸部を向けて屈曲した断面形状となっている。
  本件発明1の「湾曲」形状と引用発明の「屈曲」形状とは,ともに商品取出口側に凸部を向けて
 屈曲した形状という点で共通しており,当該形状により重心位置は商品取出口側に寄っている
 から,横軸回りのモーメントについても同様の作用を生ずるものであり,またその内壁面に
 沿って商品が滑落できることも当業者にとって明らかであるから,「屈曲」形状とするか
 「湾曲」形状とするかにより,作用効果上格別な差異を生じさせるものではない。


[裁判所の判断:]



(1)引用例の記載によれば,従来の自動販売機における商品取出口の断熱扉は,商品の
 種類数に応じた個数だけ並列状に嵌込式で設けられていたため,嵌込後,相隣る扉枠間に
 隙間が生じやすく,商品貯蔵庫内の冷気あるいは温気が散逸するという欠点があったが,
 引用発明は,断熱扉枠の四角形枠体の前方開口部一側縁に接合鍔部及びその後面に凹溝を形成し,
 他側縁には凹溝に嵌合可能な形状の凸条を形成することにより,相隣る扉枠間に隙間が
 生ずることなく嵌込むことができ,自動販売機の商品搬出口の断熱性能を向上し,また,
 この商品搬出口に対する断熱扉枠の嵌込みを簡易にさせるという作用効果を奏するものと認められ,
 その特徴は断熱扉枠の改良に関するものであって,断熱扉自体の構成にあるのではない。
 断熱性能を向上させるためには,断熱扉(本件発明1の搬出口扉に相当)が開口部(本件発明1の
 商品搬出口に相当)を塞ぐ必要があるところ,引用例には,上記のように,断熱扉が開口部を
 塞ぐことに関して,「バネ部材(33)の付勢により,断熱扉(18)が常に開口部(16)内周
 に張出した扉当鍔部(34)に接当して開口部(16)を閉鎖するようになしてある」,
 「商品(2)の落下後,断熱扉(18)はバネ部材(33)の付勢力により開口部(16)を
 閉じる」との記載があるのみであり,断熱扉が開口部を塞ぐ機能は専らバネ部材の付勢力に
 よっていることは明らかである。


(2)さらに,被告は,引用発明はバネ部材を有しているが,引用発明の断熱扉が商品取出口側に
 凸部を向けて屈曲した形状である以上,横軸回りのモーメントが生じており,開口部を塞ぐ
 ものであるから,当該バネ部材は,開口部をより確実に塞ぐための付加的な構成を開示したもので
 あると主張するが,断熱扉に横軸回りのモーメントが生ずることと,商品収納室内を循環する
 冷気や暖気の圧力が作用する開口部を塞ぐこととは同一視することができず,引用例の記載からは,
 断熱扉が開口部を塞ぐ機能は専らバネ部材の付勢力によっていることは,上記のとおりである。
 被告の上記主張も採用の限りではない。

  そうすると,引用発明の断熱扉の屈曲形状は,横軸回りのモーメントにより開口部を塞いだ状態を
 維持する形状ではなく,本件発明1の搬出口扉の湾曲形状とは機能,作用を異にするもので
 あるから,引用発明における搬出口扉の屈曲と本件発明1における搬出口扉の湾曲の相違は
 単なる設計事項にすぎず,引用発明の搬出口扉から本件発明1の湾曲形状の搬出口扉を容易に
 想到することができるとした本件決定の判断は,誤りであり,この誤りが本件決定の結論に
 影響することは明らかである。


(2) 中空糸型膜分離ユニット事件 *15

[本願発明:]


 「高分子材料よりなる複数の中空糸膜を結束し,この中空糸膜の結束端部における中空糸膜相互の隙間を封止剤によって封止し,かつ結束端部を封止した中空糸膜をハウジングに収納した中空糸型膜分離ユニットにおいて,上記中空糸膜の材質をオレフィン系樹脂のうちポリプロピレンとし,かつ封止剤の材質をオレフィン系樹脂のうちポリエチレンとすると共に,この封止剤の融点は,中空糸膜の融点より低温域であり,その加工温度は,中空糸膜の融点より低く,かつ封止剤の融点以上の雰囲気下の温度であり,この加工温度で封止剤と中空糸膜結束端部を加熱し,中空糸膜端部を溶融させることなく封止剤を溶融流動状態にした後に,封止剤を冷却固化させて中空糸膜の結束端部の中空糸膜相互の隙間を封止し,更に,分離ユニットを構成する接液部材であるハウジングを前記封止剤や中空糸膜と同一系統のオレフィン系樹脂で成形したことを特徴とする中空糸膜分離ユニット。」 熱融着しない中空糸と封止剤をアンカー効果によって固着する。



[刊行物1:]


 同様な構造の中空糸型膜分離ユニットにおいて、「中空糸とスリーブあるいは
中空糸とスリーブの間で該中空糸と同一素材のシール部材を介して液密的に熱融着されて
開口端部を形成している事を特徴とする。」発明が記載されている。実施例には、中空糸及び
封止材の双方に、同じフッ素系の樹脂を使用したものが記載されている。



[刊行物2:]


 同様な構造の中空糸型膜分離ユニットにおいて、「本発明でいう中空糸には特に制限は無いが,
対薬品性,耐熱性で優れているフッ素系樹脂,オレフィン系樹脂,イミド系樹脂,……などの
樹脂系,あるいはアルミナ,ジルコニアなどのセラミック系,ガラス系,炭素系などの中空糸が
好ましい。・・・本発明で中空糸束の端部を固定するために用いる樹脂は,中空糸の転移点よりも
低い融点を持つ樹脂であれあればすべてよく,フッ素系樹脂,オレフィン系樹脂,……などが
好ましい」と記載されている。


*15 東京高裁 平成13年(行ケ)64号


[進歩性否定の論理(審決):]


 刊行物2に中空糸及び封止剤の双方にオレフィン系樹脂を選択する組合せが例示され、
二つの実施例に基づいて,同一系統の樹脂同士の組合せが良いことが示唆されている。
「アンカー効果」の効果自体は,接合・接着技術の分野等で周知の事項であり,また,
中空糸膜におけるアンカー効果は当然に発生する固着現象であって,それを利用していることも
周知の事実である。



[裁判所の判断:]


 (1)刊行物2においては,中空糸に用いる樹脂として,フッ素系樹脂,オレフィン系樹脂等,
6種類の有機高分子樹脂群のほか,無機系の樹脂群等多数のものが挙げられており,
中空糸端部を固定するために用いる封止剤として,フッ素系樹脂,オレフィン系樹脂等6種類の
有機高分子樹脂群が挙げられているから,このような中空糸及び封止剤に用いる樹脂の組合せは,
極めて多数に上り,たまたま,二つの実施例がいずれも中空糸及び封止剤の双方に同じフッ素系の樹脂を
選択する組合せを採用しているからといって,刊行物2が中空糸及び封止剤の双方に
同一系統の樹脂を選択して組み合わせるべきことまでを開示しているということはできない。



(2)刊行物1は,中空糸と封止剤とが液密的に熱融着し得ない樹脂の組合せは,刊行物1発明に
当たらないものとして排除していることになるから,刊行物1に接した当業者にとって,
両者が熱融着しないことが周知であるポリエチレンとポリプロピレンの組合せに想到することは,
刊行物1自身によって阻害されるというべきである。

 被告は,ポリエチレンが耐溶剤性,耐薬品性に優れ,中空糸モジュールの構成部材の樹脂として
何ら問題はなく,ポリプロピレンと同じオレフィン系樹脂に属する汎用で安価な材料であって,
その融点がポリプロピレンより低いことも周知の事項であるから,当業者がポリプロピレンの
中空糸膜とポリエチレンの封止剤との組合せに想到することは容易であると主張する。

 しかしながら,ポリエチレンが中空糸モジュールの構成部材の樹脂として何ら問題はなく,
ポリプロピレンと同じオレフィン系樹脂に属し,その融点がポリプロピレンより低いからといって,
両者が熱融着しないという阻害要因を解消しない限り,本件発明の構成に想到することが
容易ということはできない。



(3) 壁紙糊付機事件 *16

[本願発明:]


  本体後部から引き入れられるシート状の壁装材を,前記本体の前面側から使用者が手で引き出すことにより,本体内部に配設された糊付けロール(301)を含む複数のロール間の所定の経路に添って移動させ,本体下部に配設された糊桶内の糊を前記糊付けロールにより前記壁装材の裏面に連続的に塗布する手動壁紙糊付機において,  前記糊付けロールに対して前記壁装材の引き出し力を助勢する補助動力源(3)と,前記補助動力源からの駆動力を前記壁装材の引き出しの回転力として前記糊付けロールに伝達すると共に,当該引き出し方向への前記糊付けロールの単独遊転を許容する一方向クラッチ機構とを備えていることを特徴とする手動壁紙糊付機。

 この発明では、いわゆるクラッチ機構を設けることで、補助動力源からの動力の伝達状態と、
糊付けロール他の連動ロールの遊転状態とを維持できる。即ち、補助動力源の動作時には、その
駆動力を前記壁装材の引き出しの回転力として前記糊付けロールに伝達することが出来るし、
補助動力源の駆動に拘わらず当該引き出し方向への前記糊付けロールの単独遊転を行うこともできる
ので、駆動源の動作の有無に係わらず、使用者が通常の手動型同様に壁装材を引き出せる。




*16 東京高裁 平成13年(行ケ)280


[審決:]


 本件発明は,「NEWα取扱説明書」(第1引用例)及び特開平10−34776号公報(第2引用例)又は
特開平5−43084号公報(第3引用例)記載の各発明に基づいて,いずれも当業者が容易に発明を
することができたものである。


  第1引用例には、一方向クラッチがない点は本願発明と共通する壁紙糊付機が
示されている。
 第2引用例は、糊付機の駆動伝達系に一方向クラッチ機構(14)を設けて
段付ロール(1,2)と糊ロール(6)の回転を同期させるようにしたもの
(右図参照)。
第3引用例は、ファクシミリ装置等の用紙搬送装置に関するものであって,
送りローラを駆動機構に対して一方向クラッチ機構を介して連結する構成とすることで,用紙が詰まっ
た場合に用紙を送り出し方向に引っ張れば,駆動機構が停止状態にあっても,
詰まった用紙を容易に取出し得るようにしたもの。



[裁判所の判断:]


 本件発明1においては,「補助駆動源からの駆動力を壁装材の引き出しの回転力として
糊付けロールに伝達すると共に,引き出し方向への糊付けロールの単独遊転を許容する」ような
構成の一方向クラッチ機構を備えることで,「手動壁紙糊付機」において「特に切り替え動作無しに,
手動型と自動(動力補助付き)型とを使い分けるようにする」ことを実現するものとされ,一方向
クラッチ機構を採用するに当たって,明確な解決課題の下に,一方向クラッチ機構に係る具体的
構成態様が特定されている。機械要素としての一方向クラッチ機構が,一方向の回転のみを伝達し,
これとは逆方向の回転を遮断する,すなわち,伝達しないことを基本機能として備えるものであること
自体は技術常識に属するとしても,当該一方向クラッチ機構を採用するに当たり,回転遮断を行う
回転方向をいずれとするか,また,いかなる状況で回転遮断を行うかは,目的とする技術的課題が
あって,初めて,その具体的構成態様を決定し得るものである。しかしながら,以下のとおり,第2〜
第4引用例には,一方向クラッチ機構を備えることで,「手動壁紙糊付機」において「特に切り替え
動作無しに,手動型と自動(動力補助付き)型とを使い分けるようにする」との技術的課題について,
記載ないし示唆はない。


 すなわち,第2引用例には,糊付機の駆動伝達系に一方向クラッチ機構を設けることが開示されて
いるものの,当該一方向クラッチ機構は,段付ロールと糊ロールの回転を同期させるべく用いられ
ているものであって,糊付されている紙を手動で引き出し得るように作用させるものとしての機能は
なく,本件発明における構成態様の一方向クラッチ機構の使用を示唆するところはない。
次に,第3引用例は,ファクシミリ装置等の用紙搬送装置に関するものであって,送りローラを
駆動機構に対して一方向クラッチ機構を介して連結する構成とすることで,用紙が詰まった場合に
用紙を送り出し方向に引っ張れば,駆動機構が停止状態にあっても,詰まった用紙を容易に取出し得る
ようにするものが開示されているが,用紙搬送自体を手動と自動との両方で行うことを意図するところ
はなく,本件発明1における一方向クラッチ機構の構成態様が示唆されているものとはいえない。


(4) 四輪駆動可能な駆動装置事件*17

[本願発明:]


  横置きエンジンを車体の前方に配置してなる4輪駆動可能な駆動装置であって,左右ディファレンシャル出力シャフト(8)を回転自在に軸受けしたディファレンシャルギアケース(6)にディファレンシャル駆動ギア(7)を設け,該エンジンの側部に配置されたトランスミッションの車体横方向に延びる出力軸に設けられたトランスミッション出カギア(4)に上記ディファレンシャル駆動ギア(7)を噛み合わせ,かつ,上記ディファレンシャルギアケース(6)に上記左右ディファレンシャル出力シャフトのうちの車体前後方向の中心軸線側のシャフトを回転自在に受ける筒部(10)を車体横方向に延びるように設け,上記筒部(10)には上記ディファレンシャル駆動ギア(7)に対しこの筒部(10)の突出方向に所定距離離間させてこのディファレンシャル駆動ギアと同軸上にこのディファレンシャル駆動ギアより小径の後輪駆動用ギア(20)を設けるとともに,上記筒部(10)と平行に車体後方に配置された後輪駆動用ギア軸(22)に後輪駆動用ギア(20)と噛み合う後輪駆動用中間ギア(24)を配置し,上記後輪駆動用ギア軸(22)と後輪駆動用プロペラ軸(28)とをベベルギア機構(30)により連結して後輪駆動系を構成し,この後輪駆動系にクラッチ機構(23)を設けたことを特徴とする4輪駆動可能な駆動装置。


*17 東京高裁 平成14年行ケ322


 この発明は、下の従来構造では、ディファレンシャル駆動ギア(36)に直接後輪駆動用中間ギア(49)が
噛み合う構造であるため,大径のディファレンシャル駆動ギアの半径に相当する量が不可避の突出量と
して加わる結果,装置全体をエンジンルーム内にコンパクトに収容できないという問題を解決するもの。



[公知例:]



1−ディファレンシャルケース  5−エンジン側出力軸  20−前輪出力軸  26−後輪出力軸


[判決:]


 引用発明は,後輪駆動用中間ギア軸を備えないものであって,大径のディファレンシャル
駆動ギアの半径に相当する量が不可避の突出量として加わるとの問題点を有するものではない。
それゆえ,後輪駆動用中間ギア軸及びベベルギア機構の車体後方への突出量を小さくするとの,
本件発明の解決すべき課題を有する従来技術,すなわち,本件発明の進歩性を判断する際の先行技術と
なるものではない。
 また,審判甲第3号証記載の発明(省略)は,後輪駆動用中間ギア軸を備え,大径のディファレン
シャル駆動ギアの半径に相当する量が不可避の突出量として加わるとの問題点を有するものであるが
後輪駆動用中間ギア軸及びベベルギア機構の車体後方への突出量を小さくするとの技術的課題や該技術的
課題を解決するための構成は記載されていない。そうすると,本件発明は,審判甲第3号証記載の
発明に基づいても,当業者が容易に発明をすることができたものということができない。


 

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