【VI】項に述べた拒絶理由の検討の結果、有効な反論が構築できなければ、
それが可能になるまで、明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて
本願発明を進化させるしかない。
請求項に発明特定事項を追加する限定補正によって、まず引用発明との相違点を増やして、
足し算論をクリアする。次に、それに基づいて動機づけ論での反論を構築する。
すなわち、本願発明が(A+B+C)であって引用発明が(A+B)のとき、
相違点(C)だけでは審査官の動機づけ論を論破できなければ、本願発明(請求項)を
補正して発明特定事項を(A+B+C+D)として相違点を(C,D)とする。そして、
A) それに基づいて主要な動機づけ論を否定する論理を考える
B) または、発明特定事項を(A+B+C+D)とすることによって、
本願発明を補正前から別方向にシフトさせ、その結果、引用例としての適格性を
否定できる阻害要因の存在を主張できないかを考える。
これができるまで、発明特定事項を増やし続ける。
作用・機能・目的・課題等の相違を主張する場合、その相違を根拠付ける
構成上の相違が表現されるように限定することが必要である。
明細書・特許請求の範囲の補正に対しては、特許法上、
@新規事項追加禁止(第17条の2 第3項)
A最後の拒絶理由に対する補正制限(17条の2 第1項)の制約があるから、
これに注意しなくてはならないことは勿論である。
その他、権利取得上の問題として次のチェックが必要である。
出願時に起案したクレームは、その時点でのアイデアや具体的製品に適合させてある。
このため、それから数年を経過して中間手続が行われる時点では、出願時のアイデアが
具体的な設計段階に至っていたり、または出願時の製品がその後に設計変更されていたり
することが多く、その結果、現在のクレームが自社技術・製品と適合していない状態に
なっていることが多い。
単に、拒絶理由通知に示された引例を回避する補正に留まらず、同時に、現在の
製品・設計を確認してこれをカバーしていることを確認する必要がある。
問題となる他社製品が判っているとき、それを確実にクレームの技術的範囲に属すると
いえるようにカバーできているかを十分に確認する。
競業他社は、自社特許のクレームから逃れるために、どのような設計変更を行うか、
技術者と共に十分に検討し、それに対応できる補正を検討する。
このような検討は、すでに出願時にされている筈のものではあるが、出願から数年が
経過したところで再度検討を行って軌道修正できるというのが中間手続における補正の
最大の利点である。
特許後に、相手方に特許侵害を警告したり、侵害訴訟を提起したりすると、多くの場合、
特許は無効審判による反撃を受ける。その段階で明細書を訂正して無効審判に対抗することは
制度上可能であるが、その際に訂正できる範囲は、拒絶理由通知を受けた場合に
補正できる範囲に比べて極めて狭い。
従って、重要案件については、予め無効審判を想定した
段階的・多面的なクレームを、中間手続の段階で準備しておくことが望ましい。
特に、「最後の拒絶理由通知」でない拒絶理由通知に対して補正できる範囲は、
新規事項追加禁止の制限に違反しない限り自由であるから、クレームを段階的・多面的に
作り直す大きなチャンスであり、積極的に利用すべきである。
拒絶理由通知書を受け取ることは、特許成立が遅れるというデメリットはあるものの、
一面で、遅い時期まで分割出願の機会が与えられることを意味するから、出願見直しの
好機が与えられたと肯定的に捉えることができる。
分割出願は、出願見直しのための最強の手段である。補正は、原出願を減縮しつつ
生き残らせて特許にするに留まるが、分割出願は当初の開示範囲内に限られるものの、
原出願とは全く異なるクレームを作ることができる。